一日中落ち込んだ気分で、何をするのにも億劫で何も楽しめない状態。また、眠れないし、食欲もなく、何となく疲れやすいなどの状態で日常生活がうまく回らなくなっていれば、うつ病かもしれません。
日本人の100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているという調査があります。調査によっては、現在うつ病になっている方が4%~5%、生涯有病率は16%という結果などもあります。
また、うつ病の男女比は女性の方が男性よりも約1.6倍多いことが知られています。



米国精神医学会(APA)の精神疾患の診断分類のDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders/精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、抑うつ症候群の中に分類されています。

分類されている疾患の一例(ページ内にリンクしています)
うつ病/大うつ病性障害:Major Depressive Disorder 
持続性抑うつ障害(気分変調症):Persistent Depressive Disorder(Dysthymia)
月経前不快気分障害 :Premenstrual Dysphoric Disorder 

うつ病/大うつ病性障害

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている;これらの症状のうち1つは、抑うつ気分、興味または喜びの喪失である。

1、抑うつ気分
2、興味・喜びの著しい減退(患者の言明、または他者の観察によって示される)。
3、著しい体重減少、あるいは体重増加(例えば、1か月で体重の5%以上の変化)、または食欲の減退または増加。
4、不眠または睡眠過多。
5、精神運動性の焦燥または制止。
6、易疲労性、または気力の減退
7、無価値観、罪責感(妄想的であることもある)
8、思考力や集中力の減退、または、決断困難
9、死についての反復思考

B.症状は臨床的に著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C.症状は、物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下)によるものではない。

D.症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち、愛するものを失った後、症状が2カ月を超えて続くか、または著名な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止であることが特徴づけられる。

E.躁病エピソードまたは軽躁病エピソードは存在したことはない。

A.の項目の説明

1、抑うつ気分

気分が落ち込んでいる状態であるということ。
・心が空っぽな感じ
・突然わけもわからず泣けてくる
・漠然とした悲しみ

2、興味・喜びの著しい減退

・テレビやネット、新聞等を見たり読んだりする気になれない状態
・趣味など今まで楽しんでいたものが楽しめない
・友人との会話が億劫になっている。または避ける。
・外出しなくなる

3、著しい体重減少、あるいは体重増加

・食欲がわかない
・食事がおいしいと感じない
・逆にストレス解消のために食べ過ぎる

4、不眠または睡眠過多

・なかなか寝付けない
・夜中に何回も目が覚めてしまう
・目覚めが早く(午前4時とか)その後は眠れない
・いつまででも眠っていたい、日中も眠くてしょうがない。

5、精神運動性の焦燥または制止

・落ち着かないことが行動として出てしまう。歩き回る等
・家を出たり入ったりを繰り返す
・口数が少なくなり、会話が減少する
・行動すること自体が少なくなり、横になった状態が多くなる

6、易疲労性、または気力の減退

・疲れがひどくて、何もやる気がしない
・また、何もしていないのに疲れている
・今までできていたことができない(例・家事とか)
・頑張ろうという気になれない

7、無価値観、罪責感

・自分が役に立つ人間と思えない
・誰からも好かれていないと思っている
・自分が悪い人間であると思っている

8、思考力や集中力の減退、または、決断困難

・考えることができなくなっていたり、集中することができなくなっている
・人と話をしていても話に集中できない
・考えることが面倒

9、死についての反復思考

・いつも死にたいと考えてしまう
・何となく死にたいと思ってしまったりする
・自殺の計画を立てたりする


持続性抑うつ障害(気分変調症)

A.抑うつ気分がほとんど1日中存在し、それのない日よりもある日の方 が多く、その人自身の言明または他者の観察によって示され、少なく とも2年間続いている。 注釈:小児や青年では、気分はいらいら感であることもあり、また期 間は少なくとも1年間はなければならない。 

B.抑うつの間、以下のうち2つ以上が存在する:
1.食欲減退または過食
2.不眠または過眠
3.気力の低下または疲労
4.自尊心の低下
5.集中力低下または決断困難
6.絶望感


C.この障害の2年間の期間中(小児や青年については1年間)、一度に 2ヶ月を超える期間、基準AとBの症状がなかったことがない。

D.大うつ病障害の基準の症状が2年間持続的に存在してもよい。

E.躁病/軽躁病エピソードが存在したことがなく、気分循環性障害の診 断基準に合致したことがない。

F.障害が、持続性統合失調感情障害、統合失調症、妄想性障害、または 他の特定のまたは特定されない統統合失調症スペクトラムと他の精 神病性障害でよりよく説明できない。

G.症状が物質(例、乱用薬物、投薬、あるいは他の治療)の生理的作用によるものではない。

H.症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域に おける機能の障害を引き起こしている。


月経前不快気分障害(PMDD)

A.ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する

B.以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する
1.著しい感情の不安定性(低:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)
2.著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
3.著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
4.著しい不安、緊張、および/または”高ぶっている”とか”いらだっている”という感覚


C.さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると症状は5つ以上になる
1.通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
2.集中困難の自覚
3.倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
4.食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
5.過眠または不眠
6.圧倒される、または制御不能という感じ
7.他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または腫脹、関節痛または筋肉痛、”膨らんでいる”感覚、体重増加


注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない

D.症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)

E.この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)

F.基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)

G.症状は、物質(例:乱用薬物、医薬品、その他の治療)や、他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない




参考文献:
高橋三郎・大野裕監訳『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』
医学書院 2014/6/30