お父さん、お母さんへ。ADHDの子どものワーキングメモリー(作業記憶)に好ましい影響を与える運動について
注意欠陥多動性症(ADHD)の子どもがおられるお父さん、お母さんに、ADHDの子どもの認知機能強化するための方法の一つとして運動があることを知ってほしくて取り上げました。
今回は子どものADHDについて取り上げていますが、認知機能強化は境界知能や軽度の知的発達症(知的能力障害)、学習障害、うつ病などの気分障害などの子どもにも有効な方法でもあります。

さて、今年の初めに以下のタイトルの論文が発表されました。
Exploring the impact of different types of exercise on working memory in children with ADHD: a network meta-analysis
(ADHDの子どものワーキングメモリー(作業記憶)に対する様々な運動の影響を探る:ネットワークメタ分析)
注意欠陥多動性症(ADHD)は、子どもによく見られる神経発達症であり、作業記憶の問題が伴うことが知られています。
近年、運動介入はADHDの子どもの認知機能を改善するための方法として注目を集めています。
ただ、運動の種類によるワーキングメモリー(作業記憶)に与える影響はまだ明確ではない。
そこで、ネットワークメタ分析を用いて、ADHDの子どもにおける様々な運動介入がワーキングメモリー(作業記憶)に与える影響を評価することを目的に研究をされた。
メモ(千田の説明)
※実行機能には、ワーキングメモリー(作業記憶)や自己抑制、注意・集中力、整理整頓、計画性、セルフモニタリング(自己モニタリング、自己監視)などのが含まれております。
※ワーキングメモリー(作業記憶)とは、思考や判断などの際に必要な情報を一時保存しておく記憶機能
※ネットワークメタ分析とは、3つ以上の研究結果(学術論文)を統計学的に統合して、分析を行う手法です。
対象者
・3歳から18歳までの子どもおよび青少年
・DSM-5やICD-10などの診断基準に基づきADHDと診断された者。
方法
対象者に関連する研究をPubMed、Cochrane、Embase、Web of Scienceの各データベースで2024年11月までで検索した結果の合計8,916件。
8,916件に対して、選考基準と除外基準に基づいたスクリーニング後の17件(419名)の参加者の研究が分析対象とした。
対象国(研究対象になった論文が発表されている国)
中国(5件)、アメリカ合衆国(3件)、オランダ(3件)、スイス(2件)、イラン(2件)、ドイツ(1件)、カナダ(1件)など複数の国。
トレーニングの介入期間
1週間から13週間まで、介入の頻度は週に1~5回で、各セッションは10分から90分であった。
それらをネットワークメタ分析し、認知・有酸素運動、球技(バスケットボールやサッカーなど)、心身運動(ヨガや太極拳など)、インタラクティブゲーム、一般的な有酸素運動がADHDの子どものワーキングメモリー(作業記憶)に与える影響を評価した。
メモ(千田の説明)
※認知・有酸素運動とは・・・身体活動(有酸素運動)と同時に認知課題(意思決定、問題解決、記憶の課題など)を行う方法。例えば、デュアルタスク(二重課題)トレーニング、戦略ゲーム、エクサゲーミングなど。
・デュアルタスク(二重課題)トレーニング・・・2つの課題が同時に課せられるようなトレーニング。例、ジョギングと計算など。
・戦略ゲーム・・・勝つために戦略を考え戦略を練ることに焦点を当てたゲーム。
・エクサゲーミング・・・運動とゲームを組み合わせたもの。例、テレビゲームに運動の要素を取り入れたものなど。
※PubMed、Medline、EMBASE、Scopus、CINAHL、PsycINFOとは、文献データベースのことです。私も文献を探すときに利用しています。
効果量の計算
SMD(標準化平均差)という方法を用いている。
コーエンの分類
SMDでは、
0.8以上は大きな効果(はっきりとした差がある)
0.5~0.8は中程度の効果(明確な違いがある)
0.2~0.5は小さい効果(小さいが意味はある)
0.2未満はほぼ差がない、無視できる効果。
結 果
最も有意な効果を示したのが、認知・有酸素運動であった。
ワーキングメモリー(作業記憶):SMD = 0.72
球技:SMD = 0.61
心身運動:SMD =0.50
インタラクティブゲーム:SMD =0.37
一般的な有酸素運動のみ:SMD = 0.40
結論
著者は「認知・有酸素運動は、ADHDの子どもにおける作業記憶の改善に最も有意な効果を示しました。介入頻度の増加と長期間の介入は、その効果を高める可能性があります」と述べている。
千田
お父さん、お母さんへ。
今回の研究から、子どもの運動技能に問題がない場合は、認知・有酸素運動や球技をスクールや教室、または、放課後デイサービスで指導体制(心理師でスポーツ指導ができる人や作業療法士、スポーツトレーナー、球技の指導者など)が整っているところがあれば、計画的に取り入れることは有効な方法の一つかもしれない。
私は境界知能の子ども達に認知機能強化トレーニングを行っているが、そのレパートリーとして、認知・有酸素運動のデュアルタスク(二重課題)トレーニングが可能な子供には継続的に行ったりもしている。
これらのトレーニングで注意は、有酸素運動の負荷をどの程度にするか。同時に、認知課題の選択もその子どものレベルに合ったものを行っているかによって効果が変わってくる。
だから、やみくもにやっても効果は出ない、きちんと子どものレベル(生理的なものと認知的なもの)を把握して、レベルに合った課題選択をして行わないと効果が薄れるであろう思われます。
これは、認知機能強化トレーニング全般にも言えることです。
このあたりの研究も多くなされているが今回は触れないでおきます。
子どもが運動嫌いでなければ、子どもに「やってみないか」と言って「やってみる・やりたい」と言えば、選択肢の一つであろうと思います。

引用・参考文献
Xiangqin Song , Yaoqi Hou, Wenying Shi, Yan Wang, Feifan Fan, Liu Hong(2025)
Exploring the impact of different types of exercise on working memory in children with ADHD: a network meta-analysis
Front Psychol.2025 Jan 27:16:1522944. doi: 10.3389/fpsyg.2025.1522944
PMID: 39931282 PMCID: PMC11808027 DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1522944

