母親が妊娠前又は周産期にうつ病になった場合、子供が自閉スペクトラム症になるリスクはどれぐらいあるのか。


母親が妊娠前又は産前・産後にうつ病になった場合、子供が自閉スペクトラム症になるリスクはどれぐらいあるのかという研究が発表されました。

今後、母親になる予定の方を含め、一般の方々も気になることであろうと思い書いてみました。


目次
はじめに
分析の結果
千田の感想と予防方法



はじめに


タイトル:母親の産前・産後うつ病と子供の自閉スペクトラム症のリスク:システマティックレビューとメタ分析(Maternal pre- and perinatal depression and the risk of autism spectrum disorders in offspring: systematic review and meta-analysis)


この研究の前までの研究では
母親の産前および周産期のうつ病と、子供の自閉スペクトラム症(以後、ASD)との関連性について、矛盾する結果が報告されています。

は千田が書き加えています。
矛盾する結果とは、母親の産前および周産期のうつ病と、子供のASDと関連があるという結果と関連がないという結果があるということです。


この研究の目的
母親の産前および周産期のうつ病と、小児および青年における ASD のリスクとの関連性に関するエビデンスを検証し、統合するためシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。



方法
まず、データベースの開始から2024年2月21日までのPubMed、Medline、EMBASE、Scopus、CINAHL、PsycINFOを検索した。
その後、ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスなどを実施した。

PubMed、Medline、EMBASE、Scopus、CINAHL、PsycINFOとは、文献データベースのことです。私も文献を探すときに利用しています。
メタアナリシスとは、複数の研究結果(学術論文)を統計学的に統合して、分析を行う手法です。


分析は、
約160万組以上の母子を含む12件の研究が最終分析に含まれた。
(正確な人数は1,655,966組の母子)

この中に日本人の母子は含まれていませんが、結構な人数の母子を対象に分析されています。

分析の結果ランダム効果メタアナリシス

●妊娠前にうつ病を経験している母親の子供ではASDのリスクが52%増加

●産前うつ病の母親の子供ではASDのリスクが48%増加


●産後うつ病の母親子供ではASDのリスクが70%増加


これらのことが明らかになりました。

勘違いされる方はいないと思いますが、この数字はうつ病を経験していない母親や、産前・産後うつ病になっていない母親から生まれる子供と比べてのASDのリスクの確率です。
決して、ASDの子供が生まれてくる確率ではないことを承知しておいてください。

論文を読んで、リスクの増加が結構高いことにびっくりしました。(千田)


研究の強みと限界(論文の一部を記載)
親の神経発達症、母親の身体的併存疾患、出生前の健康状態、産科合併症など、いくつかの潜在的な交絡因子は、研究の大部分で説明されていませんでした。その結果、母親のうつ病と子供のASDのリスク増加との間に観察された関連は、含まれたほとんどの研究でこれらの重要な要因に対する調整が不十分または欠如しているため、慎重に解釈する必要があります。

交絡因子とは、第三の因子のことをいいます。
例えば、母親のうつ病と子供のASDのリスク増加の間に影響を与える第三の因子ということになります。



著者らの結論
結論として、私たちのシステマティック レビューとメタ分析により、妊娠前および周産期うつ病を経験している母親の子供の ASD のリスクが高いことが明らかになりました。
したがって、これらのリスクのある子供や青少年に対する早期スクリーニングと的を絞った介入プログラムが不可欠です。

千田の感想と予防方法

リスクのある子供や青少年に対する早期スクリーニングやASDに的を絞った介入プログラムが不可欠であることは理解できる。

ただ、その前にやれることはないだろうか。
確かに、ASDがどうしてなるのか。また、周産期のうつ病はなぜ起こるのかなど、いくつかの仮説はあるが詳しくはまだわかっておりません。
だからといって、何もしないでいいかというと、そういうわけにもいかない。
実際に、妊娠前にうつ病を経験している女性は、経験していない女性に比べて周産期にうつ病を発症する確率が高いのも事実である。



そこで、子供がそろそろほしいよね。と夫婦が話し合うようになったころから、はじめればいいのではないかと思う予防的なことをいくつか書いてみます。(もちろん、もっと前から始めた方が健康的でいいとは思います)

1、夫婦関係は良い状態にしておく。:最重要
・お互いの両親との関係において一定の線が引けておくようにする。(世代間境界と言います)
・子育てについての考えを全てとは言いませんが、大体において一致できるように話し合っておく。



2、特に妻の個人的なストレス(仕事や対人関係問題など)を解消しておく。
・もちろん、夫のストレス問題も解消しておく。



3、運動嫌いでなければ、生活の中にジムでのトレーニングやピラティス、ヨガなどを取り入れてみる。
・できれば有酸素運動がいい。



4、「運動はちょっと」と思う方は、趣味やリラクゼーショントレーニング、ちょっと努力はいるが『正確なマインドフルネス』などを日常生活の中に組み込むようにする。



5、鍼が嫌いでなければ、自律神経のバランスを整えたり、ストレスに対する予防効果がある鍼治療を定期的に受けるようにする。
・美容鍼なども有効な場合がある。(顔にも自律神経に関係する筋肉がいくつかあるからです)



6、現在ストレスを抱えている場合は、自律神経のバランスが乱れているかななど軽度の場合は鍼治療、それよりも重い場合は認知行動療法などを受けて解決しておくようにする。



当ルームでも行っておりますが、周産期のうつ病・不安症に対しては、非薬物療法では認知行動療法が有効な方法の一つでもあります。
周産期のうつ病・不安症への認知行動療法の研究は、イギリスやオーストラリアが有名です。

今回の論文もオーストラリアの先生らが書いております。

日本でもここ5年から10年、周産期のうつ病・不安症に対して認知行動療法がおこなわれるようになってきております。


夫婦仲良しで心身の健康にいいことをはじめましょう。



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産後うつ病のカウンセリング方法のひとつ-認知行動療法と鍼治療の方法-



参考文献
BJPsych Open. 2025 Jun 4;11(4):e117.
Maternal pre- and perinatal depression and the risk of autism spectrum disorders in offspring: systematic review and meta-analysis
Biruk Shalmeno Tusa /Rosa Alati/Getinet Ayano/Kim Betts/Adisu Birhanu Weldesenbet/Berihun Dachew