自閉スペクトラム症の二次障害の不登校の例・パート1

紹介する事例は、当ルームに実際に来られた方で、本人と親に許可をいただけた方です。なお、人物、その他の情報が特定できないように多少変更を施しております。

今、ASDで困っていたり、今回のようにASDと二次障害で困られている方が、神経発達症と認知行動療法を専門にしている相談機関への相談に行かれるきっかけになればと考えております。

中学1年生・女子

母親と来室。
中学に入って1か月ぐらいたったころより登校をしぶり始める。
この時期に小児科クリニック(偶然なんですが、院長は私の認知行動療法セミナーの受講者でした)を受診、そこでクリニックで行っている心理師のカウンセリングを勧められ2週間に1回ペースで相談を行う。

それから約6か月後に当ルームにはじめて相談に来られる。
ご家族は、父親(48歳)、母親(47歳)、本人(13歳)、弟(10歳・ADHD?)

どのように育ってきたか。
母親が話すには、
幼少期は多少頑固というかこだわりが強かったと思いますが、それほど手がかかる子ではなかった。
ただ、幼稚園の時に先生から一人で何かするのが好きなようです。といわれたことがとても印象に残っている。
小学校時代は特に目立った問題もなく、友達は少なかったが大きなトラブルもなかった。勉強もきちんとして宿題も出し忘れるということはまずなかった。どちらかというとやり過ぎるぐらいであった。
気になったことといえば、通学路が工事とかで突然変更になると固まってしまって動けなくなったり、パニックを起こすことがあった。それで、家に帰ってくることもあった。
中学に上がってバスケット部に入部したころから、何となく学校に行かなくなりはじめる。部活の顧問や部員との会話がかみ合わないように感じて行かなくなったといっていた。
また、クラスでのコミュニケーションも問題になりはじめる。話している内容に全く興味がないのと、会話をしていても「そんな感じ」といわれても何なのかが全く分からないので話していてつまらなくなってきていた。
小児科クリニックでは、心理テストとWISC-Ⅳ(知能検査)などを行っている。

結果は、ASDについてはグレーゾーンといわれていた。
理由はWISC-Ⅳ(ウィスク・フォー:ウェクスラー式知能検査の一つ)のみで判断しており、それ以外の発達関連のテストは行っていなかった。
初回相談終了時に当ルームで心理療法を行うことについて、現在通院中の担当医師に(この時にセミナー受講者であることを知る)当ルームで行っていいかの確認を取ってほしいことを伝え、問題がなければ当ルームで行うこととした。

第2回目以降
医師のOKが出たということなので、まずはACAT(エーキャット)というASDに特化した認知行動療法の説明を行った。次にASDと注意欠如・多動症(以後、ADHDと表記)のスクリーニングテストを行った。
ADHDは全く問題はなかったが、ASDの特性は持っているかもしれないので、次回はより詳しく調べるテストであるCARS2(小児自閉症評定尺度 第2版)というテストを行った。
また、DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)を用いて判断も行った。
心理師のため診断はできないが、テスト結果としては「おそらく自閉スペクトラム症ではない」と考えられた。
ただし、強いこだわりや対人関係、自分に過剰なノルマを化してしまう傾向や特性があることが分かった。
後日、医師にテスト結果の報告を行ったところ「軽度の自閉スペクトラム症」という診断がつけられた。


次に、初回面接で育ってきている中で「小学校の時は目立った問題はなかった」とお母さんが話していたが、たぶんそんなことはないだろうと千田(心理師)は考えながら話を聞いていた。すると、実は本人が周りと合わないと感じながら過ごしていたことがだんだんと分かりはじめてきた。
このことをお母さんに理解してもらうために、本人にいくつか質問というか例を出してそれに答えてもらった。
例えば「〇〇先生(いつも行く小児科医)に会いに行くよ」と言われてお母さんとクリニックに行って先生に挨拶したらすぐに帰ろうと思っていなかった。と聞くと「そうそう、そう思っていたし、なんでお母さん帰らないんだろうと思っていた」と答えたときに隣にいたお母さん「そうなの、なんでそう思うの」というので、本人に代わって特性の説明を行った。
診察を受けるのであれば、例えば「今から〇〇先生のところに行って、挨拶をしたらあなたは体の具合を診てもらって、それが終わったらお母さんは先生からお話を聞くから漫画を見ながら待っていてね」とここまで言う必要があったんです。
「〇〇先生(いつも行く小児科医)に会いに行くよ」だけだと、本人の特性からすれば「〇〇先生に会ったし後は帰るだけ」と考えることは自然なこと、言われたことだけを信じてその行動をとるという特性があるので、お母さんは家を出るときに言ったことと違った行動をしていると思ったに違いない。
というような例をいくつか用いて確認をしていった。
その都度お母さんは「えーー」という反応をされるので、本人はお母さんが驚くことが面白いのか笑みがこぼれ、お母さんは「そうだったの」と自分が思っていたことと違っていることに驚きながらも笑顔で説明を聞いていました。
(本人の状態が軽度の場合や診断がつかないほどの場合などではよくある会話場面です)
心理師としてどうなのと思われるかもしれませんが、状況や場面にもよりますが、そういう時に私は、一言一句正確な言葉を使って突っ込みを入れたりします。
すると場が和み、今後の相談もみんなが期待を持ちながら積極的に行うことができるように感じております。

また、親と一緒に来られている場合で、本人の特性をまだ理解していない段階では「何でそうなの」という言葉が出たりします。
(たぶん、家でも本人のある発言や行動に対して言っているのではないかと推測します)
ただ、これは本人も答えられないし、非常に困ってしまう質問なのです。
例えば、左利きの子供に「何で左利きなの」と質問しても答えられないのと同じです。
「何でそうなの」という言葉は、自分をネガティブに捉えてしまう場合があるので注意が必要です。
知的能力の高いASDの子供は、小学生の時などには自分の中では矛盾を持ちながらも周りのやり方を学習して真似をすることで、結果的に矛盾が外に現れないので周りの人にはその子供の問題が見えなくなってしまっていることがよくあります。
本人も小学生時代には、周りは矛盾を抱えていることが理解できないでいたが、中学生になってより人間関係が複雑になったことで、いよいよコップから水があふれるように耐えられなくなった結果が不登校という行動になって表れたということです。
なので、中学生になって何かがあったから不登校になったというよりは、小学校からの矛盾に耐え切れなくなって行動化や表面化してしまった。ということになります。
(環境や性格、本人の特性などによって違いはありますが、うつ病や不安障害、強迫性障害、行動では引きこもりなど、二次障害が起こってしまうことがよくあります)

さて、ACATについてはパート2で少し詳しく説明しますが、以下のACATを用いて16回の相談と3か月後に現状確認のための相談を行った。
バスケット部はやめることになったが、自身の特性について理解をしてマネジメントを行えているのと、問題が生じる前に教頭又は、スクールカウンセラーとお話ができるように環境調整も行えた。
不登校の問題については、8回目~10回目の相談中に自身の特性のマネジメントと環境調整を行っていく中で登校が再開できたが、休んだり行ったりの不安定な状態は当分続いた。
千田としては、これからも特性との付き合いを考えて、「特性のマネジメント」と「周りの人からの配慮(合理的配慮)」が本人自身(セルフマネジメント)が行えるようになることが目標でした。
学校には行きはじめましたが、登校自体を目標にはしなかった。なぜならば、上の2つが定着してくれば、本人が学校に行くことが必要と考えれば行くだろうと考えていた。


ACATという認知行動療法の流れ

ACATという認知行動療法についての説明と認知行動モデルの説明を行った後、この方法を用いて行うこととお母さんにはペアレントトレーニング(ASDの特性を取り入れた方法)の要素を取り入れて家庭での対応方法の指導を行うこととした。
また、不登校の対応については、はじめは行わないことも伝え、本人の自分の特性に対しての対処方法(マネジメント)と環境調整をお願いする合理的配慮について学習していくことを伝え本人・母親からの了解を得た。

ACATの進め方を簡単に説明すると

1、自分の特性を明らかにする。
  その「強み」と「弱み」を理解する。

2、認知行動療法にASDの特性を加えた認知行動モデルという説明方法をまずは理解していただく。
  以下の表-1 は空白ですが、状況-認知-気分-行動-身体化と「ASDの特徴」を書き加えて理解を進めてまいります。

3、マネジメントを学んでいきます。
  「自分でできる工夫」と「配慮や調整」を考え行動に移していく。

ACAT・認知行動モデル
表-1(大島らのモデルを改変)

次回パート2に続く

リスタでは、ASDでお困りの方に対して、ACATを以下の場合にも用いております。
1、中学生以上成人の方の個人の認知行動療法
2、中学生~高校生までの親子での認知行動療法
3、夫婦を対象にした認知行動療法
  カサンドラ症候群の対応も含む


参考文献:
大島郁葉・桑原斉 著 『ASDに気づいてケアするCBT-ACAT実践ガイド-』
株式会社金剛出版 2020/10/10

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