心理師・千田の思考「研修:『境界知能と依存症』に参加して、子供や大人の方に思うこと」

タイトル:境界知能と依存症 ~気づかれないままなぜ繰り返すのか


2月17日(土)に開催された研修会(オンライン参加)の参加の報告と考えたことを書いてみたいと思います。

今回講師をされた方は、デイケアなど含む依存症の治療に力を入れられている精神科クリニックの公認心理師と精神保健福祉士の方です。
また、研修は大人の境界知能の方の依存症についての解説とクリニックのデイケアで行われていることについての説明。


はじめに、
今回の研修で再度確認できたことは、『大人の問題ではあるが、大人になってからの問題ではなく、幼少期から対応方法(または対応されなかった結果)の問題でもある』ということです。


クリニックで多い大人のケースとして挙げられていたのは、(こちらのクリニックは基本的に状態・症状の重い患者さんが多いのが特徴)
●幼少期や学童期から行為障害が存在する
●早期に教育課程から離脱している(周りの大人が何らかの対応しない結果、このようなことが起こってしまっている)
●仕事・通所先が「1ヶ所」では続かない
●遅延価値割引が強い
●身の回りのことで目立って出来ない事があまり無い

行為障害とは、『人や物に攻撃的である』、『人のものを壊す』、『繰り返しうそをつく、物を盗む』、『社会規範や規則から逸脱した行動をとる』これらの行為が継続して行われている状態。
遅延価値割引とは、同じ10万円であっても、将来(1年先とか2年先とか)に受け取る価値を、今受け取る価値よりも低く見積もってしまうことをいいます。遅延価値割引が強いということは、長期的な目標に対する行動が取れず、今が楽しければ良いと言った行動になってしまいます。



大人になる前に子供に対して、親をはじめとした大人たちはどのような対応をしてあげればいいのか。
1、認知機能強化
これはコグトレ(脳の認知機能強化を目的としたトレーニング)や前頭葉・実行機能プログラム(FEP)などを継続して行うことが重要であろうと考えます。今回のクリニックでもプログラムの中にコグトレを入れていました。

2、自尊心や自己肯定感を育てる
勉強の理解にしても、授業の先生の説明を理解する事もうまくいかなかったり、そのことをクラスメイトと比べたりまた、不器用であったり、集中できなかったりすることで『叱られたり否定されたりすること』が多くなってしまう。そうすると当然自分に対して否定的なったり、自信が持てなくなってしまいます。

まずは、親や教師たちが子供に対して肯定的表現を多く使用することが重要になってくる。
親の場合ペアレントトレーニングなどを受けるのも効果的ではないかと考えます。

3、社会性を身に着ける(コミュニケーションや対人関係)
集団のルールや決まり事が理解できなかったり、相手の言っていることの意味が理解できなかったり、自分が伝えたいことをうまく伝えられなかったりする。また、非行グループに誘われて疑うこともなく入ったり、そこで便利に利用されたりすることも少ないありません。(大人になってもいいように利用されている方が多くいます)




こちらのページもご参考に

境界知能の相談とトレーニング(子供から大人まで)
境界知能とは、一般的に知能指数(=IQ)が『70~84未満』のことをいいます。
人口に対して約14%、約1,700万人もの方がおられます。


コグトレ(脳の認知機能強化トレーニング)個別指導
対  象:
境界知能でお困りの小学4年生~高校生
ADHDの実行機能トレーニングの一つとして、小学4年生~高校生
今後は境界知能でお困りの5歳~小学3年生も行う予定です。



さて研修は、(ここからは一般の方には難しいかもしれないので興味のある方だけご覧ください)
第一部は依存症的視点から考える、大人の境界知能の見立てと対応
境界知能と依存症の説明(基本的な説明をされていました)
それぞれについて詳しくはここでは説明しませんが、
境界知能の方の大きな問題としては、境界知能で困っているが法的には精神保健福祉法にも知的障害者福祉法にも該当しない。だから支援が受けられないこと。ただし、神経発達症などと併合している場合は対象となります。

次にIQから見た神経発達症と境界知能の違い。知的知能を伴わない神経発達症はIQは平均値ではあるが凸凹がある。境界知能は全般的に数値が低くなる。

境界知能の特性などは、宮口幸治氏の「ケーキの切れない非行少年たち」や「ケーキの切れない非行少年たちのカルテ」などを参考に説明をされていました。

依存症の原因ついての説明は、以下の3つの仮説について説明をされていました。
1、昔からある『機能不全家族』の説明から始まり、信頼障害仮説。2、ドーパミンによる「条件付け 」(学習された行動)。3、自己治癒仮説。そして、それぞれに共通するルールなどの説明がありました。


信頼障害仮説とは、依存者は小児期逆境体験によって自身や他人を信頼できず自己の感情調節やストレス対処を依存に求めるという仮説
自己治癒仮説とは、無意識のうちに自身の抱える困難や苦痛を一時的に緩和するのに役立つ物質を選択し、その結果、依存症に陥るという捉え方を基本とする。



コグトレを含めたデイケアで行っていることの説明
集団でのプログラム
1、集団精神療法:脳トレ(コグトレ)、音楽療法、心理教育(ディスカッションを主体)
2、生活・作業療法:創作活動・手作業、料理、買い物ツアー
3、レクリエーション:グループゲーム、ゲートボール、季節毎のイベント・出し物発表、外出プログラム、バスツアー
4、スポーツ:ボクシング、和太鼓、よさこい、卓球
日数:1週間の内6日間参加することができる。
1日の参加時間:午前9時~午後7時(昼食と夕食を含む)


後半のケースでの説明
1、50代(IQ70代)のアルコール依存症:自閉スペクトラム症
2、40代(IQ70代)の薬物依存症:覚せい剤(再犯を繰り返している方)



参考文献
宮口幸治(2019)「ケーキの切れない非行少年たち」新潮社
宮口幸治(2022)「ケーキの切れない非行少年たちのカルテ」新潮社

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